Domus Vacua · Estate Care Notes
ご両親から受け継いだ家が、相続の後もそのままになっている。横浜市・川崎市の整理の現場では、そうしたご相談をいただくことがあります。郵便受けに届く通知、季節ごとの庭木の手入れ、ときおりの換気。遠方にお住まいのご家族にとって、それは小さな、しかし確かな務めとして続いていきます。
空き家の維持費は、一つひとつを見れば大きな金額ではないこともあります。けれども、固定資産税、火災保険、修繕、防犯、近隣との関係は、互いに結びつきながら時間とともに重さを増していきます。整理を先延ばしにすることで失うものは、金銭だけに限らないと当社は考えています。
本稿では、相続空き家を所有する方が把握しておきたい維持費とリスクを、五つの観点から順に整えていきます。
I. 住む人のいない家にかかる維持費
空き家であっても、費用は止まりません。固定資産税と都市計画税、火災保険料、電気や水道の基本料金があります。庭木の剪定や草刈り、定期的な見回りのための交通費も加わります。
家は、人が住むことで保たれている面があります。換気や通水が途絶えると、室内に湿気がこもります。カビの発生、配管の劣化、雨漏りの発見の遅れといった変化が、気づかないうちに進むことがあります。その結果、後になって修繕費が大きくなるということがあります。
代表の阿部は医師として、住環境と衛生の関係を長く見てきました。閉め切られた室内でカビや害虫が広がると、ご家族が久しぶりに整理に入る際にも、防護や清掃への配慮が必要になります。維持費とは、帳簿上の数字だけでなく、こうした手間の積み重なりも含むものと捉えるのが自然です。
II. 固定資産税と、空き家をめぐる制度の変化
住宅が建っている土地には、固定資産税の負担を軽くする住宅用地の特例が適用されています。小規模な住宅用地では、課税標準が6分の1に軽減されるとされています。空き家であっても、この特例は原則として維持されてきました。
一方で、空家等対策の推進に関する特別措置法、いわゆる空家等対策特別措置法による制度の見直しが進んでいます。周囲に悪影響を及ぼすおそれのある空き家は特定空家等とされ、2023年の改正では、その手前の段階にあたる管理不全空家等も市町村による勧告の対象となりました。勧告を受けると住宅用地の特例から外れ、税負担が増える場合があります。
期限のある制度について
相続した空き家を売却する際には、一定の要件を満たせば譲渡所得の特別控除を受けられる制度があります。ただし、相続開始からの期間や建物の状態など、細かな要件と期限が定められています。2024年4月からは相続登記も義務化されました。具体的なご判断にあたっては、税理士・司法書士などの専門家を交えてご検討ください。
III. 火災保険と防犯という、見落としやすいリスク
空き家になると、火災保険の扱いが変わることがあります。住宅物件ではなく一般物件として扱われ、保険料や補償の範囲が異なる場合があります。居住の実態が変わったことを保険会社に伝えていないと、万一の際の補償に影響する可能性もあるため、契約内容の確認をおすすめします。
防犯の面では、外から不在が伝わることが一つの要因になります。郵便物がたまる、雨戸が閉じたまま、夜に灯りがともらない。こうした状態の住まいは、不法侵入や不法投棄、放火の対象になりやすいと言われています。
家財が残っていること自体も、リスクを高めます。貴重品や重要書類、故人の思い出の品がそのままになっていれば、盗難への懸念が生じます。紙類や布製品は可燃物でもあります。家財の整理は、住まいの安全を整えることと切り離せません。
IV. 近隣との関係という、目に見えない資産
空き家の影響は、敷地の内側にとどまりません。越境する枝、舞い込む落ち葉、伸びた雑草、害虫の発生、強風時の屋根材の飛散。ご近所の方が困っていても、その声がご家族に直接届くとは限らず、自治会や行政を通じて伝わることもあります。
故人がその地で長く暮らしてこられたのであれば、近隣との関係は、何十年もかけて築かれたものです。空き家の状態が続くことで、その信頼が少しずつ損なわれていくことがあります。将来、売却や賃貸を考える際にも、周囲からの印象は少なからず影響します。
管理を外部に委ねるという選択肢もあります。ただ、根本的な解決は、この家をこれからどうするのかを決めることにあります。そのための前提となるのが、家財の整理です。
V. 整理を先に進めるという選択
整理が先延ばしになる理由は、ご家族ごとに異なります。思い出の品に手をつけにくい。ご兄弟姉妹の意見がまとまらない。遠方で通うことが難しい。どこから始めればよいか分からない。いずれも、ごく自然なことです。
家財の整理が済むと、選択肢が具体的になります。売却、賃貸、解体、あるいはご家族が住まわれること。不動産会社による査定も、より正確に行えるようになります。判断のための材料が、ようやく揃うのです。
当社では、エステート・ケアマネージャーが一人で最初から最後まで伴走します。残すもの、受け継ぐもの、手放すものを、ご家族と確かめながら仕分けを行います。手放すものは、有価物・廃棄物・専ら物の三分法に沿って、古物商許可や関係法令のもとで適正処理を行います。必要に応じて、税理士・弁護士・不動産会社など、ご家族が信頼される専門家とも連携します。
むすび
空き家の維持費とリスクは、目立たないまま静かに積み重なっていきます。だからこそ、早い段階で現状を確かめておくことに意味があると、当社は考えています。
霜の季節にも咲き続ける寒白菊のように、時間をかけて、丁寧に。相続空き家の整理について、ご家族のお考えがまとまる前の段階からご相談を承っています。


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