団地の退去立会いには、独特の静けさがあります。家財がすべて運び出された部屋で、管理者の方が手元の用紙を見ながら、壁や天井の一点一点を確かめていく。そのとき確認されるのは、畳やふすまのような大きなものばかりではありません。壁に残ったネジの頭、配管穴の小さなフタ、天井の照明のリモコン。そうした手のひらに収まる部品が、ひとつずつ数えられていきます。
UR賃貸住宅や横浜市営・神奈川県営・川崎市営の住宅では、住戸に備え付けられた部品や付属品は「住宅の一部」として貸し出されているものです。退去のときに入居時の状態に戻っていなければ、修理や取替えの費用が退去される方の負担になります。民間の賃貸住宅にも似た決まりはありますが、団地では確認の対象がより細かく、しおりに明文化されている点が特徴です。
遺品整理でご実家の団地を退去されるご家族にとって、これらの部品は見落としやすいものです。長く暮らした部屋では、部品は引き出しの奥や押入れの隅に移動していることが多く、家財と一緒に運び出されてしまいます。当社の現場で確認を求められることが多かったものを手がかりに、搬出の前にしておきたいことをまとめました。
一 検査で確認される、三つの小さな部品
横浜・川崎の団地で当社が退去の立会いに同行したとき、管理者の方から所在を尋ねられることが多かったのは、次の三つです。
- エアコン取付金具のネジ — 団地の壁には、エアコンの室内機を掛けるための専用の金具(プレート)が備え付けられている住戸があります。エアコンを外すと金具と、それを留めていた専用のネジが残ります。ネジは工事の際に外され、窓枠や床に置かれたまま行方が分からなくなりがちです。
- 配管穴(スリーブ)のフタ — 室内機と室外機をつなぐ配管を通す壁の穴には、使わないときにはめておくフタがあります。エアコンを設置した時点で外され、どこかにしまわれたまま何年も経っていることが珍しくありません。室内側と室外側の両方にあります。
- 照明器具のリモコン — 住戸に備え付けの照明がリモコン式の場合、本体だけでなくリモコンも返却の対象です。テレビやエアコンのリモコンと一緒に小箱に入っていたり、ベッドの脇に落ちていたりします。
どれも、部屋を見渡しただけでは「ない」ことに気づきません。検査の段階で指摘を受け、取替えの費用が請求される、という順序になります。
二 なぜ、小さな部品が費用になるのか
各事業者のしおりには、退去時の考え方が明文化されています。横浜市営住宅では給湯器のリモコンパネルや照明用カバーが入居者負担の修理・取替え項目に挙げられ、川崎市営住宅では「入居時の状態に戻していないもの」の例として、ドアノブが扉に付いていないものや、キッチン収納の扉が外れたままのものが示されています。UR賃貸住宅では、エアコンのためのスリーブ穿孔は模様替えにあたり、原則として退去時に入居者の費用で原状回復することが承諾の条件です。
鍵も同じ考え方です。入居時に渡された本数がそろわなければ、複製鍵を作ってもシリンダー錠の交換費用を負担することになります。そして、退去後の部屋に残された物は放棄されたものとして処分され、その費用も後から請求されます。「残すべき物が足りない」ことと「残してはいけない物がある」ことの両方が、費用の理由になるというのが、団地の退去の特徴です。
届出の期限、検査の呼び方、必ず返す物の一覧は、事業者ごとに整理した案内ページにまとめています。詳しくは団地(UR・市営・県営住宅)退去時の注意点と返却物チェックリストをご覧ください。
三 家財を動かす前に、しておきたいこと
順序を変えるだけで、多くの指摘は避けられます。当社では、搬出の前に次のことをお願いしています。
- 部品を先に探し、一つの袋にまとめる — 鍵、エアコンのネジと金具、配管穴のフタ、照明や給湯器のリモコン。見つかった物は袋に入れ、「管理者へ返却」と書いて、搬出する家財とは別の場所に置きます。
- 写真を撮っておく — 壁の金具、配管穴、照明の状態を、家財を動かす前に撮影しておくと、検査のときに入居時からの状態を説明しやすくなります。
- 届出の期限から逆算する — 届出の期限は、横浜市営が退去日の10日前、URと川崎市営が14日前、神奈川県営が15日前です。届出のあとに退去日を延ばせない事業者もあるため、片付けの見通しが立ってから届け出るのが安全です。
- 名義人がご逝去された場合は、先に管理者へ連絡する — 同居されていたご家族が住み続けるには承継の申請が必要で、期限があります。退去される場合も、立会いの日程と鍵の受け渡しを早めに相談しておくと、ご家族の負担が減ります。
四 当社の進め方
団地の遺品整理をお預かりするとき、当社は最初に住戸を確認し、返却の対象になりそうな部品を分けて保管してから、家財の仕分けと搬出に入ります。残置物のない、清掃の済んだ状態で検査日を迎えられるよう、届出の期限から作業日を組みます。畳やふすまの張替え、エアコンの撤去と原状回復が必要な場合は、管理者の指示に沿って手配のご相談に応じています。
遠方にお住まいのご家族には、作業前後の写真によるご報告と、鍵の受け渡しの方法をご相談のうえで進めています。費用の目安は料金案内をご覧ください。
小さな部品は、住まいを借りていた年月のあいだ、静かにその場所にあり続けたものです。最後にそれを元の位置へ戻すことは、長く暮らした部屋への、ささやかな礼儀でもあると私どもは考えています。団地の退去にともなう整理のご相談を承っています。


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