Medical Perspective · Field Notes
訪問診療を受けながら、ご自宅で最期の時間を過ごされる方がいらっしゃいます。お見送りの後、その居室には介護ベッドや酸素濃縮器、点滴スタンド、吸引器といった機器が残ります。数日前まで静かに作動していた機器を前にして、どこへ連絡すればよいのか迷われるご家族は少なくありません。
在宅医療で用いられる機器は、外見が似ていても、所有者と返却先がそれぞれ異なります。医療機関の貸与品、医療機関と契約した事業者の機器、介護保険による貸与品、そしてご家族が購入されたもの。性質の異なるものが一つの部屋に並んでいることが、看取りの後の整理を難しくしています。
本稿では、医師が経営する当社が整理の現場で見てきたことをもとに、在宅看取りの後に残るものを区分します。そのうえで、返却と適正処理の順序をお伝えします。
I. 残された医療機器は、誰のものか
看取りの後に最初に行うべきことは、機器を動かすことではありません。所有者を確かめることだと当社は考えています。誤って搬出すると返却の手続きが滞り、費用の精算が生じることもあります。
酸素濃縮器や携帯用の酸素ボンベ、輸液ポンプなどは、多くの場合、主治医の医療機関が契約した事業者から貸し出されています。ご家族が直接契約を結んでいないため、所有者の存在が見えにくい機器です。
介護ベッドやエアマット、車椅子は、介護保険の福祉用具貸与として届けられていることが一般的です。この場合は、ご本人と事業者との契約に基づきます。一方、ポータブルトイレや衛生材料などは購入品として扱われ、ご家族が引き継ぐ家財となります。
区分の手がかりは、機器本体に貼られた事業者のシールや銘板、契約書類、お薬手帳に挟まれた連絡票などにあります。判断がつかないものは、訪問診療の医療機関に尋ねるのが確かです。
II. 酸素濃縮器と貸与品の返却
酸素濃縮器は、ご家族の判断で処分したり、別の部屋へ移したりしないでください。訪問診療の医療機関、または設置した事業者へ連絡するのが基本です。回収の日程は事業者が調整し、電源の扱いについても指示があります。
看取りの直後は、弔問や葬儀の準備が重なります。回収の日程は葬儀を終えてからでも相談に応じてもらえることが多いため、まずは連絡だけを入れておくとよいでしょう。
酸素ボンベが残っている場合は、回収まで火気から離れた場所に保管します。高圧ガスを充填した容器であり、一般のごみとして出すことはできません。
介護ベッドなどの福祉用具は、担当のケアマネージャー(介護支援専門員)に連絡すると、事業者との調整を進めてもらえることが多くあります。契約の終了日や利用料の扱いは事業者ごとに異なります。その場で確かめておくと安心です。
返却の際は、本体だけでなく付属品も揃えておきます。チューブや加湿用の容器、リモコン、取扱説明書などです。整理の現場では、付属品だけが家財に紛れて見つかることが少なくありません。
III. 点滴用具・注射針・残薬の扱い
在宅医療で生じた廃棄物は、家庭から排出されるものとして一般廃棄物に区分され、市町村がその扱いを定めるとされています。根拠となるのは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)です。
注射針など鋭利なものは、専用の容器に入れて医療機関や薬局へ返す扱いが広く案内されています。家庭ごみに混ぜると、収集に携わる方が負傷するおそれがあるためです。点滴バッグやチューブなど鋭利でないものは、自治体の区分に従って出せる場合があります。横浜市・川崎市にお住まいの場合も、各市の案内と医療機関の指示を確かめてから進めることをお勧めします。
医療用麻薬が残っている場合
痛みを和らげるために処方された医療用麻薬の貼り薬や内服薬が、残っていることがあります。これらは法令によって管理が定められており、ご家族が廃棄するものではありません。処方した医療機関、または調剤した薬局へ返却してください。
体液の付着したリネンや使用済みの衛生材料にも、注意が要ります。医師として整理の現場の安全衛生を見てきた経験からは、手袋を着けて扱い、袋を二重にして密閉することが基本と考えています。ご家族だけで抱え込まず、医療機関や専門の事業者に相談することも選択肢の一つです。
IV. 返却を終えてから、家財の整理へ
当社は、医療機器と残薬の返却を先に済ませ、その後に家財の整理へ進む順序を大切にしています。貸与品が残った状態で仕分けを始めると、所有者の異なるものが混ざります。誤って搬出される余地が生まれるためです。
整理に入る前には、居室の機器を一つずつ確かめます。所有者と返却先を書き出した一覧をつくり、ご家族と共有します。返却の連絡が済んでいないものは仕分けの対象とせず、その場に残します。
当社では、整理の対象を有価物・廃棄物・専ら物の三つに分けて扱う、適正処理の三分法を採っています。返却を前提とする貸与品は、そのいずれにも含めないことが原則です。区分を明確にすることが、ご家族と関係者双方の安心につながると考えています。
こうした連絡と日程の調整は、エステート・ケアマネージャーが一貫してお預かりします。訪問診療の医療機関、事業者、ケアマネージャーとの間を一人の担当者がつなぎます。ご家族が同じ説明を繰り返す負担を、少しでも減らすための仕組みです。
在宅看取りの後に残る機器の多くは、故人の療養を支えるために、ひととき預けられていたものです。それぞれの所有者のもとへ一つずつ返すことは、療養の時間を静かに閉じていく所作でもあります。
返却と整理の順序に迷われたときは、当社にご相談を承っています。看取りから相続までの道のりを、北極星のようにご家族の道しるべとして見守る存在でありたいと考えています。

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