※本記事は、複数の現場で目にした情景をもとに構成したエッセーです。特定のご依頼・ご家庭を記録したものではありません。
台所の柱に、カレンダーが掛かっていた。
銀行でもらうタイプの、月めくりの、ごく普通のカレンダーだ。片付けの現場では、外したあと、ほかの紙類と一緒に仕分けることが多い。けれど、すぐに束ねる前に、私はいちおうページをめくる。
カレンダーには、その家の暮らしが小さく残っている。通院の日、宅配の日、地域の集まり。毎月同じところに赤い丸がつき、別のページには鉛筆の薄い丸がある。予定の名前が書かれていなくても、線の濃さや大きさで、その人なりの大切さが見えることがある。
赤い丸は、忘れてはいけない用事なのだろう。鉛筆の小さな丸は、誰かに知らせるためではなく、自分の心に置いておく印なのかもしれない。理由は分からない。分からないままだからこそ、勝手に意味を決めないようにしたい。
片付けの現場では、紙一枚がただの紙とは限らない。カレンダーの間にメモが挟まっていることもあれば、裏側に連絡先や買い物の控えが残っていることもある。だから、ページをめくり、中に何か挟まっていないか、確認が必要な書き込みがないかを見てから仕分ける。

作業が進むと、カレンダーもほかの紙と一緒に整えられ、部屋は少しずつ静かになる。空いた壁には、四角い日焼けの跡だけが残る。その跡を見ると、そこに長いあいだ時間を数えてきたものがあったのだと分かる。

カレンダーというのは、その人の暮らしの楽譜のようなものだと思う。強く弾く音符と、そっと押さえる音符がある。赤い丸は生活で、鉛筆の丸は、たぶん祈りに近い。
何気ない紙の一枚にも、そういうものが残っている。だから私たちは、カレンダー一枚でも、急がずにページをめくる。全部を知るためではない。大切なものを、知らないまま通り過ぎないためである。
(スタッフS)
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筆者: 株式会社ノース・ポール 現場スタッフS/監修: 株式会社ノース・ポール(医師が経営する遺品整理・生前整理の会社/有資格スタッフが対応)/最終更新日: 2026年7月13日


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